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さて、昨日の冒頭で示した通り、今回この新型コロナウイルスによって、社会が「New Norm=新しい当たり前」にシフトせざるを得ない状況に置かれました。オンラインでの打合せは、この数ヶ月であっという間に当たり前になり、なかなか世の中に浸透していなかった時差通勤やリモートワークも着実に広まった印象を受けます。都市封鎖となり強制的にテレワークせざるを得なくなった諸外国の状況と比べれば日本国内は緩いものの、パーソル総合研究所の調査によれば、日本全国のテレワーク実施率は3月の13.2%から、緊急事態宣言後は27.9%と2倍以上になったそうです。在宅では仕事にならない職種も多いと思いますが、それでもまだ30%にも満たない実施率。この事態がデジタルインフラが現在ほど整っていない10年、20年前に起きてたら、、、と思うとゾッとしますね。
これから世界各地で人々が都市生活、経済活動に戻ったあとも、ソーシャルディスタンスの習慣を続けることは必要だし、スポーツ界でも昨日紹介した各国リーグなどの指針が示されている通り、選手のトレーニング環境、試合運営、観客動員など制約は続くことになりそうです。
テクノロジーが生み出す”New Norm”
そんな中、beforeコロナ時代に戻るのではなく、「New Norm=新しい当たり前」を生み出すという発想はスポーツの世界にも求められるのではないでしょうか。ダボス会議を主催するWorld Economic Forum(WEF)でも、COVID-19がスポーツビジネスに与える影響について興味深い記事を掲載しています。プロスポーツの3大収入源となる「放映権収入」、「商業収入(スポンサー/ライセンスなど)」、「マッチデー収入(チケット/飲食など)」について、それぞれ大きな減収が予想されます。その一方で新たなファンエンゲージメントを進める動きもあります。こういう状況下でも非常に動きが早いNBAですが、Chief Operation Officer・Mark Tatum氏が実際のアクションについてWEFのPodcast「WORLD vs VIRUS」にて語っています。
Our broadcasting partners are really understanding and we’re working with them on different forms of content. It’s not just the NBA, it’s all live sports – millions of fans around the world are looking for content. We’re working closely with our broadcasting, digital and marketing partners to find ways to engage at this time. – Mark Tatum (Chief Operation Officer, NBA)
■OTT(Over-The-Top)
プロスポーツの3大収入の中でも、とりわけ大きな割合を占める放映権収入には大きな影響が見込まれますが、自前のOTT(Over-The-Top)プラットフォームを持つリーグなどのコンテンツホルダーにとっては、ファンの視聴プラットフォームをデジタルにシフトさせるきっかけにもなっているようです。
4月20日から米国内ではESPNが放映し、日本でもNetflixで毎週2話ずつ配信中の「The Last Dance」(マイケル・ジョーダンの現役最後となる97-98シーズンのシカゴ・ブルズを追いかけたドキュメンタリー)は長期化する在宅期間中の需要も高く、当初の予定を2ヶ月前倒しで公開に至ったそうです。20年以上前の映像をベースにした「The Last Dance」は象徴的なコンテンツですが、LIVEスポーツがない今、NBAやMLBはスポーツファンの需要に応えるように過去の試合のアーカイブを無料開放して、ファンとのエンゲージメントを高めています。日本国内でもDAZNはJリーグ過去の名勝負に新規の実況・解説を加えて配信するなど、過去の素材を活用した新たなコンテンツづくりを試みています。
■eスポーツ/リモート競技大会
長期化する在宅生活の中で、OTTでのコンテンツ消費と共に増えている事例はeスポーツの活用でしょう。国際競技団体がeスポーツの競技大会を主催しているケースも実はbeforeコロナからあったようです。セーリングの国際競技団体World SailingではVirtual Regatta社とのパートナーシップにより、既に2018年にはeSailing World Championshipsを実現。このシーズンだけで74ヶ国から17万人ものプレーヤーが参加したとのこと。在宅期間中、このeSailingに参戦するトップセーラーも増えているようです。
そして「実際の試合がないのであれば、バーチャルでの対戦!」と動いたのはNBA。ワシントン・ウィザーズ八村塁選手の参戦でも話題となった『NBA 2K Players Tournament』を4月上旬に開催。全米ではESPNのほか、あらゆるオンライン視聴プラットフォームで配信し、ソーシャル時代の象徴とも言えるコンテンツになっています。具体的な視聴者数は示されていませんがNBA 2KのSVPであるJason Argent氏は「ESPNでのeスポーツ番組では過去最多の視聴者数を獲得した」とLos Angeles Timesに語っています。来年以降もオフシーズンには是非続けてほしい企画ですね。
NBA以外にも話題になったのが、4月27日〜30日に行われ日本の錦織圭選手も参戦したテニスのMutua Madrid Open Virtual Pro。実際に同大会に参加予定だった選手たちが「#PlayAtHome」の下、eスポーツで対戦するという画期的な取り組みでした。公式サイトのメニューバーには「Virtual Pro」のコンソールまで配置される徹底ぶり。Facebook Gamingを通して配信し、リーチ数は大会4日間で延べ7563万にも上ったようです。
もうひとつeスポーツではなく、ソーシャルディスタンスを保ったままで実施されているリアルな競技大会も。5月に入るとアーチェリーの国際競技団体World ArcheryがLockdown Knockoutと称したリモートでの国際競技大会を開催中。決勝は5/17(日)に行われます。
加速するスポーツ2.0への流れ
iTunesやSpotifyの登場で劇的に消費行動が変わった音楽業界に続き、スポーツ業界でもbeforeコロナから既に進んでいた動きですが、コンテンツの消費行動の変化は加速するのではないかと思います。
OTTにコンテンツを溜めていくことによって、アーカイブに関して言えば、リコメンデーション機能も付けられるでしょうし、スタッツ/データ、多視点カメラ映像、VRなどテレビとは違ったオンラインだからこその付加価値だったりエンゲージメント手法も可能性が広がる。更にはソーシャルディスタンスの必要性から、競技団体オフィシャルのeスポーツやリモートでの競技大会運営も始まり、テクノロジーの活用で『スポーツ2.0』とも称されるこうしたよりインタラクティブなファンエクスペリエンスが”New Norm”になる日も一気に近づいた気がします。
ということで、今日はここまで。
明日も続きを書きたいと思います。アスリートたちが起こしているアクションについて。
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