BLM and Sports Community in Divided Nation | 分断する社会におけるBLMとスポーツ界

またしてもご無沙汰投稿です。前回の投稿はアメリカ大統領選挙の直前でしたが、続きを書こう書こうと思いながら、1ヶ月が経過してしまいました。。今回の大統領選ではCOVID-19への配慮もあり、ほとんどの州で郵便投票が利用促進され、その集計によって複雑な結果となりました。現時点でもトランプ大統領の敗北宣言こそありませんが、不正があったという訴えもことごとく棄却され、民主党バイデン氏の勝利は確実に。年明け以降の新政権でのスポーツ界への影響も気になるところですが、まずは前回の投稿の続き。トランプ政権下で加速したアメリカ社会における分断とスポーツに触れていきたいと思います。

前回の投稿ではMegan Rapinoe選手を中心にLGBTQなどのマイノリティーとスポーツに触れましたが、今回はアメリカ社会で進む分断の象徴とも言えるBlack Lives Matter(BLM)とスポーツ界の動きについて考えてみたいと思います。

Photo from flickr

Colin Kaepernickの膝つき行為とその扱い

オリンピックにおける膝つき行為の扱い

今年5月にミネソタ州で起きた白人警官による黒人男性ジョージ・フロイドさん暴行死事件を端緒に、コロナ禍のアメリカ社会ではBLMの抗議運動が大きく広がりました。スポーツ界においても様々なアクションが起こされていますが、オリンピック・パラリンピックにおける「膝つき行為」の是非に関する議論があったことを記憶している方も多いかもしれません。

オリンピックについては、五輪憲章第50条で、競技会場や選手村で政治的、宗教的、人種的な宣伝活動を禁止されており、IOC・IPCは膝つき行為を禁止する方針を明確にしてきました。しかしこれには賛否両論あり、東京大会での扱いについてIOCアスリート委員会でも各国のアスリートと議論をした上で、来年3月までに最終提言をIOC理事会に提言する方針が示されています。

No kind of demonstration or political, religious or racial propaganda is permitted in any Olympic sites, venues or other areas. (オリンピックの用地、競技会場、またはその他の区域では、いかなる種類のデモンストレーションも、 あるいは政治的、 宗教的、 人種的プロパガンダも許可されない。 ) – Olympic Charter: Rule 50. 2.

そもそも膝つき行為とは何なのか?

その最初のアクションは2016年に遡ります。当時、NFL・San Francisco 49ersのQB(クオーターバック)を務めていたColin Kaepernick選手が、国歌斉唱時に起立せず、片膝をついて人種差別に対する抗議の意を表したことが発端です。しかしNFLはKaepernick選手の行為、またこれに続いた選手たちの動きを支持せず、2018年にはこの膝つき行為を禁止。Kaepernick選手は、2017年にフリーエージェントとなって以降、NFL各チームからのオファーをもらえずプレー機会を失いました。

一方、NFLに限らず、彼がはじめた膝つきでの抗議は、スポーツ界に広く波及しています。前回紹介したMegan Rapinoe選手もその一人。そして、今年のジョージ・フロイド事件以降のBLMの運動拡大を受け、6月5日、NFLロジャー・グッデル・コミッショナーがこれまでのNFLの姿勢を謝罪するコメントを発表しました。「スポーツには政治的メッセージを持ち込まない」というのは、スポーツの世界では暗黙のルールとなっていますが、世界的に大きなムーブメントとなっているBLMに対して、膝つき行為については「人権」に関するメッセージと捉え、柔軟に考えるリーグ・統括団体も増えているようです。

Photo from flickr

『何かを信じろ。たとえそれが全てを犠牲にするとしても』というメッセージで明らかだが、『ナイキ』は“Just do it”と、大きなリスクを取る勇気を信じている。この姿勢で突き進めば、間違いなく民衆の目にさらされ、確実に敵も作るだろう。だが、根幹となる顧客の意識を喚起して、本物の支持者も現れるだろう。 – Martin Lindstrom

また、NFLでのプレー機会を失っていたColin Kaepernick選手ですが、こうしたアクティビストとしての注目が絶えることはなく、2018年には彼を含めたBLMの動きを支持するNIKEの広告に起用され話題を呼びました。しかし「何かを信じろ。たとえそれが全てを犠牲にするとしても(Believe in something, even if it means sacrificing everything)」というこの広告の強烈なメッセージもドナルド・トランプ大統領をはじめとする保守派との間で大きな軋轢を生み、分断のひとつの象徴ともなっています。

Drew Breesの膝つき行為に対するコメントと批判

こちらもKaepernick選手と同じくNFLのQBのお話。New Orleans Saintsの白人ベテランスターQBであるDrew Brees選手が6月「国旗に敬意を示さない人間には決して同意しない」と発言したことが波紋を呼びました。物議を醸した発言の翌日、Brees選手はこの発言について謝罪し、黒人コミュニティの側に立つというスタンスを表明しました。

この発言に反応したのが、何とトランプ大統領。Brees選手の「Big Fan」だが、彼は発言を撤回せず、アメリカ国旗についての元々のスタンスを変えるべきではなかったとツイート。しかし、これに対してBrees選手は「これは国旗の問題ではないのです。今、黒人コミュニティーが直面している現実問題を国旗の話にすり替えることは出来ないのだと気づいたのです。」と「To President Trump」で返信ツイートし、その姿勢を示しました。

こうした姿勢に支持する声も多く上がったようです。影響力あるアスリートの言動ひとつひとつには非常に大きなインパクトがあることを改めて感じる事例であると共に、アスリートも「右か左か?どちらの側に付くのか?」とスタンスを迫られる難しい立ち場にいることも感じます。ただ、この件に関しては、Brees選手がチームメイトなどと会話することで自身の誤解を解き、問題の本質が愛国心の話ではなく、人権の話であるということを認識したという学びでもあり、二項対立の「分断」を溶かしていくためのヒントを示しているようにも感じます。

Systematic Racismに立ち向かうスポーツ界

再開したNBA 2019-20シーズンとSystematic Racism

さて、今年のコロナ禍におけるBLMとスポーツを考える上で、フロリダ州オーランドのBubbleの中でプレーオフ全試合が開催されたNBAを外すことは出来ません。

新型コロナの影響でシーズンが長期中断していたNBAがシーズン再開に向けた議論の中で、再開によってBLMへの関心が失われてしまうのであればプレーすべきではないという選手側からの意見もありました。最終的にはNBAとして社会正義の実現を訴え、黒人コミュニティに対して経済的、教育的な支援を含め長期的なコミットメントを果たしていくことで意見がまとまり、BLMはオーランドでNBAプレーオフを実施するに当たって極めて重要なテーマとなりました。

Additionally, our platform in Orlando presents a unique opportunity to extend the ongoing fight against systemic racism and police brutality in this country. We will continue to work with our players and the League to develop specific plans in Orlando as well as long-term initiatives to bring about real change on these issues. (また、オーランドでの我々のプラットフォームは、この国における構造的人種差別や警察の残虐行為との現在進行中の闘いを続けていくための独特な機会となります。我々は選手やリーグと引き続き協力し、オーランドにおける具体的な計画や、これらの問題に関する真の変化をもたらすための長期的な取り組みを続けていきます) – NBA Commissioner Adam Silver

シーズン再開に関する声明の中でも特にキーワードとなるのが「Systematic Racism(構造的人種差別)」。BLMの本質は、単なる偏見から来る人種差別ではなく、奴隷制の時代から現在まで続くアメリカの歴史が生んでいるという事実も今回リサーチしていく中で理解が深まりました。この件に関しては下記のコラムが秀逸ですのでご興味ある方はお時間あるときに是非ご一読下さい。

NBAの再開に影響も。今、アメリカが戦っている相手とは(前編)【大柴壮平コラム vol.38】

Photo Courtesy of NBA.com

オーランドでは選手たちが試合前にBlack Lives MatterとプリントされたTシャツを着用し、国歌斉唱時にはほぼ全ての選手たちが膝つきで抗議の意を示しています。しかし、このプレーオフ期間中の8月23日、ウィスコンシン州で白人警官による黒人男性への発砲事件が起き、選手たちがボイコットする事態にも繋がりました。特に黒人選手の割合が高いNBAでは、選手たちのBLMを含む黒人コミュニティへのコミットメントも高いと言えます。

中でも影響力が高く、トランプ大統領の確執もあるLebron James選手はその言動だけではなく、社会変革を指導するアクションも起こしています。主宰するMore Than A Voteでは、黒人有権者への不当な抑制に対する働きかけで、投票率を上げるための活動をしています。

BLMの背景を知り、改めて考えるUSオープンでの大坂なおみ選手の行動

このようにアスリートがBLMの抗議運動に加わることは、アメリカ社会においては決して珍しいことではありません。一方で権力との間で、Kaepernick選手のようにアスリートとしてのリスクを負う可能性もゼロではありません。

こうして見ると、8月のUSオープンで一戦ごとに別の被害者たちの名前を記したマスクを着用し、準決勝ではボイコット宣言(後に主催者の要請により撤回)し、最終的には見事優勝を果たした大坂なおみ選手が、どのような決意を持ってこの大会に臨んでいたのか。今回の投稿を通して自分自身、あの時の彼女の行動に対する理解が少し深まった気がします。優勝後のインタビューを聞いていても、黒人のルーツを持つ日本人として「日本社会にも自分ごととしてBLMを認識してもらう」ということは、彼女にとってひとつのモチベーションだったと感じました。アメリカ国内で進んでしまった社会の分断という問題だけではなく、人権の問題は世界中どこにでもあり、それこそMDGsを受け継ぐSDGsにおいても非常に重要な社会課題です。もちろん日本だって例外ではないと思います。そして、ここまで見てきた事例の通り、スポーツにはこの課題にコミットしていく大きな影響力があると感じています。

さて、NetflixがこのColin Kaepernick選手の半生を描いた全6話のドキュメンタリーシリーズ「Colin in Black & White」を製作中とのこと。BLMとスポーツの関係を考える上で、その象徴というべきアスリートのストーリー。私たちがどのような考えを持って、この問題に向き合うべきなのか。それを考えるために必要となる背景が詰まっていることは間違いない。ということで、リリースが待ち切れないです。

長文になってしまいましたが、今回はこんなところで。

BLM and Sports Community in Divided Nation | 分断する社会におけるBLMとスポーツ界」への1件のフィードバック

  1. Formally, Cricket South Africa came forward as a body to lend its support to the BLM movement, making an official statement to the effect that it stands for equal opportunity. So it does seem at this point that BLM has found a positive resonance within the cricketing community of even such a racially divided nation like South Africa and is now all set to finally make a difference to hundreds of black lives that have not mattered till now.

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