前回まで「スポーツにおける”New Norm=新しい当たり前”」ということで投稿してきました。では今、この状況下で「スポーツに求められること」「スポーツに出来ること」とは、一体なんなのでしょうか。
アスリートたちからのメッセージ
いまこの段階で正解を求めるのは不可能かもしれませんが、多くのアスリートや関係者が様々な形で世の中にメッセージを発信し、アクションを起こしています。様々な境遇の中で、厳しい状況に置かれている方々も多いと思いますが、それでも自分以外の人を勇気づけようとする姿勢は素直に素晴らしいと思います。
■池江璃花子選手:「当たり前の日常」がどれだけ幸せなことなのか
5月9日に放送されたNHKスペシャル「ふり向かずに 前へ 池江璃花子 19歳」では、昨年患った白血病を克服し、前に進み始めた池江選手の姿が報じられました。想像を絶する長く厳しい闘病生活を終え、プールに戻った本当に幸せそうな彼女の姿を見て、勇気をもらった方も多いと思います。「当たり前の日常」がどれだけ幸せなことなのか。彼女の言葉には、重みと説得力がありました。影響力のあるトップアスリートとして、常に他人のことを気遣うことが出来る、19歳とは思えないほど成熟した人間性に僕自身強く感銘を受けました。
■NowVoice
「アスリートの声」として触れるべきは、本田圭祐選手がCEOを務めるNow Do社とSports Bullを運営する運動通信社の共同事業として今年4月29日にスタートしたNowVoiceでしょう。
「NowVoice」は、世の中に強い影響力を持つ、アスリートをはじめとした各界のトップランナーの「声」が聴き放題となる、定額制のプレミアム音声サービスです。日々チャレンジを続けるトップランナーたちの、今ここでしか聴けない本音の「声」をお届けしていきます。 – NowVoice
動画コンテンツと異なり「ながら聞き」が出来る音声コンテンツが脚光を浴び始める中、本田氏のリードの下、ダルビッシュ有選手、錦織圭選手、池江璃花子選手など各競技のトップアスリートが集まり、いち早く動き始めています。サービス開始と共に「日本の子供たちへ」という共通投稿テーマの下、休校が続く子供たちに励ましのエールを送っています。5月31日まではチャリティ期間として無料でサービスを提供。時流を読むセンスとスピード感のあるアクション、さすが本田圭祐というべきところですね。
■The Players’ Tribune
アスリートの声を発信するという点でもうひとつご紹介したいのはThe Players Tribuneです。常に注目を集める様々な競技のプロ・アスリートたちが自らの声を発するためのプラットフォームとして、MLBニューヨーク・ヤンキースのレジェンドDerek Jeter氏が2014年に立ち上げたアスリートによるアスリートのためのメディアです。
このメディアでは、アスリート自らがコントリビューターとして寄稿するため、全てアスリート自身の言葉が一人称で語られます。Lockdownで選手も隔離生活が強いられる中「The Iso | Quarantine Diaries」というシリーズを設け、トップアスリートたちがCOVID-19下での胸中を語っています。
池江選手を含め、アクションの大小に関わらず、沈滞したムードが漂う社会に対して少しでも希望の光を照らそうと出来ることに取り組んでいるアスリートや関係者の方々の姿を見て、恥ずかしながらやや思考停止状態に陥っていた僕自身も触発されました。そういう意味では個人的にも「スポーツの力」に感謝したいです。
心身の健康に対する貢献
また、常に心身のメンテナンスをして、健全なコンディションを維持する必要があるアスリートのトレーニングノウハウ開放などは「いまスポーツに出来ること」を示す具体的な事例だと思います。日本サッカー協会では、公式YouTubeチャンネルJFATVにて、「SportsAssistYou ~いま、スポーツにできること」という企画を実施。岡崎慎司選手・香川真司選手をはじめ影響力のあるトップアスリートたちから自宅で出来るエクササイズなどを含めたメッセージが配信されています。
IOCのOTT(Over-The-Top)である*Olympic Channelでも「#StayActive」のメッセージと共にオリンピアンの自宅ワークアウトを紹介しています。なかなかお目にかかることのない、アスリートたちのトレーニングシーンの公開は、在宅期間が長期化する中で、健全な生活を送る励みとなり、また運動不足を解消するための貴重な教材になっています。 *Olympic ChannelについてはSAJ2020レポートをご参照下さい

Home Workouts from Olympians Olympic Channel
この数ヶ月の生活環境は、改めて身体を動かすことの重要性、子供が外で遊ぶことの尊さを実感する機会にもなっている気がします。組織・個人問わず、withコロナ時代を生きていく上でスポーツ界が社会に対して還元出来る価値のひとつなのかもしれません。この点については、まさに欧州時間の昨日5月16日に世界保健機関(WHO)と国際オリンピック委員会(IOC)がスポーツと身体活動を通した健康増進に関する覚書を結んだことからも、より明確にスポーツの果たす役割と認識されています。
Over the last few months in the current crisis, we have all seen how important sport and physical activity are for physical and mental health. Sport can save lives. The IOC calls on the governments of the world to include sport in their post-crisis support programmes because of the important role of sport in the prevention of NCDs, but also of communicable diseases. – Thomas Bach (IOC President)
そして、東日本大震災のあと、被災地の子どもたちの笑顔を取り戻すためにアスリートたちが夢先生として訪問してきた「スポーツこころのプロジェクト」の在り方は、改めてこの時代にとても重要な価値観を示してくれているのではないでしょうか。これからの未来を描いて行くためにも「こころを豊かにする」というところにこそ、スポーツの存在意義があると感じています。
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