Add Social Value to Gold Medals|デュアルキャリアを考える①

ACT

俺にとってサッカーは人生のウォーミングアップだ – 本田圭祐(NewsPicksより

これは2014年NewsPicks木崎伸也氏の突撃取材に対して本田圭祐選手が語った言葉です。彼の生き方の本質を捉えた言葉だと思います。

リオデジャネイロ五輪イヤー2016年に入って早々の1月9日、東京大学にて開催された日本スポーツ振興センターの主催フォーラム『アスリートキャリアトーク(ACT)ジャパン2016』にお邪魔した際、この本田圭祐選手の言葉を思い出しました。

ACTジャパン2016のテーマは『デュアルキャリア』。アスリートが引退後に第二の人生を切り開く”セカンドキャリア”には馴染みもあるかと思いますが、”デュアルキャリア”とはアスリートとしてのキャリアと並行して社会人としてのキャリアを走らせることです。この”デュアルキャリア”について、Key Noteで登壇したVrije Universiteit Brussel(ベルギー)のポール・ワイルマン博士の講演を『トップアスリートが社会に与えるインパクト』を意識しながら聴講していました。

EUにはアスリートのためのDual Career Guidelineなるものも存在するそうで、ワイルマン博士もそのガイドライン策定の中心メンバー。そもそも欧州では、ほとんどのスポーツにおいてトップアスリートの強化・育成は競技団体やクラブチームが行うため、大学などの教育機関で”強化”することはないという社会背景があります。つまり大学などの高等教育機関に進学するということは、予め”競技以外でのキャリア”を考えた上での選択ということになります。なので前提の時点で、学校体育の延長線上にある部活が強化のメインとなっている日本とは大きく異なる、というのがまず最初に感じたこと。ちなみに、大学スポーツに限って言えば、NCAAという統括組織が存在する米国のシステムは”強化の主体”という意味では日本と機能的には似ている部分もありますがデュアルキャリア形成のためのシステムとしては大きく異なります。米国の場合、『アスリートである前に学生であること』という理念の下、Student-Athleteに対して事細かなレギュレーションを設けることで(様々な問題もありますが)学生のデュアルキャリア形成を指南していると言えるでしょう。この辺りは次回もう少し掘り下げて書いてみたいと思います。

IMG_0883

さてワイルマン博士の講演内容に戻りますが、トップアスリートのキャリアには3つのキャリア期間があると言います。それは①Educational Career(教育的キャリア)、②Vocational Career(職業上のキャリア)、③Athletic Career(競技でのキャリア)の3つです。アスリートにとってのデュアルキャリアとは①②のいずれかが③と並行して進むことを指しているのは明確ですが、ワイルマン博士は常にビジョンを持つことが大事だと繰り返し語っていました。常に次を考えて選択していくことで、例えば「なぜ大学に入るのか?」、「大学で何を学びたいのか?」が明確になると言います。目的意識が高ければ当然学生としての学習意欲も高まります。また、こうした考え方自体はトップアスリートが競技力向上する上でも必要だと言います。ビジョンを明確にし、逆算して必要なことを学んでいく、というプロセスは確かにトレーニングでも一緒なのかもしれません。そういう意味で冒頭の本田圭祐選手の発言は非常に興味深いと思います。本田選手は人生を通したキャリアプランの一部として、プロサッカー選手としての現役生活を送っているはずです。キャリアを通して達成したいことがあるからこそ、今、現役プロサッカー選手としてすべきこと、目的意識が非常に明確なのだと思います。

金メダルに社会的な付加価値を(Add social value to gold medals)- Dr. Paul Wylleman

ワイルマン博士はまたアスリートとして高みを目指すことは素晴らしいことですが、一方で競技でのキャリアを続けることによって職業上のキャリアが出遅れるリスクなどについても指摘していました。これはアスリートがしっかりと向き合わなければならない部分だと思います。競技を続けることで得られるものは大きいですが、その分貴重な”時間”という資源を費やしているということも同時に考えておく必要があります。

競技でのキャリアを続けることで得られる価値とは何なのか。もちろん勝つ選手、強い選手には賞金やスポンサーなど経済的メリットも増えるかもしれません。しかしアスリートとしての価値に対して得られる経済的メリットは長くは続きません。ワイルマン教授は『Add social value to gold medals. (金メダルに社会的な付加価値を与えること)』の重要性を説きます。競技でのキャリアにおいて、例えばオリンピックで金メダルを獲得することは当然大きなゴールとなりますが、実際にはその後の人生の方が遥かに長いわけです。『金メダルを獲ることで人生がどう豊かになるのか?』、そして『金メダルを獲ることで社会にどのようなインパクトを与えることが出来るのか?』。

FullSizeRender-2

トップアスリートは有名になればなるほど、個人から公人へ、そして社会的な財産となっていく可能性があります。金メダルを獲ることで当然自己実現という欲求も満たされるわけですが、超一流と呼ばれるアスリートはその先にある自己超越という欲求を満たすことが出来るアスリートだと思います。つまり、金メダルを獲ることで自分以外の人々、社会に対してポジティブなインパクトを与えるアスリートです。

ワイルマン博士の講演の後、アスリート・ディスカッションに登壇した室伏広治氏はこんなことを語っていました。

トップアスリートが良い人生を歩むことで次世代の子どもたちがあとに続く。そうでなければ親も自分の子どもをアスリートにさせたくなくなるでしょう。

『オリンピックに出場すること』や『オリンピックでメダルを獲ること』は当然誰もが出来ることではなく、ごく限られた人間にしか出来ないことです。その時点でとても特別な存在であり、社会的にも価値のある存在になります。しかし、単純に『金メダルを獲る』ということに目標を設定する選手と『金メダルを獲って○○をする』と目標を設定する選手であれば、後者の方がより目的意識は高まるのは間違いないでしょう。

競技でのキャリアに依存した結果、目標を達成出来なかった瞬間、その競技を終えた瞬間に大きな喪失感を覚えてしまう選手も多いのです。今、世間を騒がしている元プロ野球選手の事件もこうしたところに大きな原因があるのではないかと思います。ロールモデルとなるべきトップアスリートが、競技を終えた後のキャリアでも社会に対してポジティブなインパクトを与え続けることは非常に重要なことだと思います。それがトップアスリートに求められる社会的価値なのではないかと思います。そのために『デュアルキャリア』という考え方が必要なのかもしれませんね。

広告

Add Social Value to Gold Medals|デュアルキャリアを考える①」への1件のフィードバック

  1. ピンバック: Breaking Through the Overgeneralization | デュアルキャリアを考える② | Creating Sport Value·

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中