PSG(パリ・サンジェルマン)に所属するスウェーデン代表ストライカーのズラタン・イブラヒモビッチが、2月14日に行われたフランスリーグ1部 第25節カーン戦開始2分でゴールを決めると、ゴールパフォーマンスでシャツを脱ぎ、イエローカードの警告を受けた。その際に見せた、上半身いっぱいに刻まれたタトゥーが話題になっている。しかし彼がその肉体を見せた裏には、大きな理由があった。
805 Million Names – World Food Programme
イブラヒモビッチはWFP(世界食糧計画)との飢餓問題解消のキャンペーン「805 Million Names – World Food Programme」の一環として、飢餓に苦しむ人々50名の名前を自身の肉体に刻んでいたのです。これらの名前は一時的なタトゥー(1日経てば消えるらしい)で刻まれていたそうです。試合中にシャツを脱いだ彼の行為、上半身いっぱいに刻まれたタトゥーからは必ずしも好意的な印象を受けません。更に、開始2分でイエローカードをもらうリスクについては監督も苦言を呈しています。当然賛否を呼ぶ行為だったわけですが、良くも悪くも影響力のある選手がそれだけ目立った行動をすれば、話題にはなりますよね。
土曜日の夜のカーン戦でシャツを脱ぐと、その新しいタトゥーは何なのかと誰もが質問してきた。体に50個の一時的なタトゥーを入れていたんだ。これは世界中で飢餓に苦しんでいる実際の人々の名前だ。タトゥーが今日消えてしまったとしても、その人々はまだ存在している。世界中で8億500万人の人々が飢餓に苦しんでいる。WFPを助けるために、自分を通してそれを見せたかったんだ。
Goal.com
フォーブス誌によれば、イブラヒモビッチは2014年の世界のアスリートの年収ランキングで12位にランクし、サッカー界でもクリスティアーノ・ロナウド、リオネル・メッシに続く3番目だといいます。それだけピッチ上でも実社会でも影響力のある選手が、これだけ目立ったことをすれば話題になるのは当然。そしてそれは計算されて行われたこと。1枚のイエローカードという代償を払うことで、彼とWFPはとてつもなく大きなPR効果を生んでいます。このニュースは世界各国で報道され、賛否両論を受けながらも間違いなく世界中が飢餓問題を認知するきっかけになったはずです。WFPも試合翌日にはリリースと動画を出しており、戦略的にこのキャンペーンを張っていた様子が伺えます。
Football Star Zlatan Ibrahimovic Kicks Off Campaign To Beat Hunger | WFP
ヨーロッパ時間で16日の午後までに120万人以上が映像を視聴しており、関係者は世界中で紛争が増えるなか、この取り組みが問題への関心の増加とより多くの寄付につながることを期待している。
ロイター通信
僕自身も恥ずかしながら世界中で飢餓に苦しむ人々が8億500万人にも上るとは、この話題に触れるまで知りませんでした。この問題の認知拡大を図るために賛否両論を受ける形でも試合でインパクトを残し、世間の目を向けさせたという意味では、イブラヒモビッチ、WFPとしても大成功と言えるでしょう。記者会見の席でいくら同じことを訴えても、これほど世界中に扱われるニュースには恐らくならなかったと思うわけです。
ここまで極端なことをする勇気を持ったアスリートは稀だとは思いますが、アスリートがとてつもない影響力を持っているのは紛れもない事実です。その影響力の使い方によって、社会にどんなインパクトを与えるのか、大きく変わって来るのではないでしょうか。イブラヒモビッチとWFPの活動はアスリートの発信力を活用した社会課題解決のひとつのカタチですね。